☆読書感想 TYPE-MOONの軌跡

著  坂上秋成  文芸批評家

2017

 

TYPE-MOONの同人時代からの発売してきた作品群に対する批評とその成長について語った一冊。

 

TYPE-MOONといえば、18禁ノベルゲームから始まったFateシリーズで有名である。

中学生時代の同級生、奈須きのこ武内崇というシナリオライターイラストレーターがTYPE-MOONの元となる竹箒という同人サークルを作った。

その後TYPE-MOONを結成し、同じく18禁ゲーム月姫を発売したことが人気の発端となった。

その後、空の境界魔法使いの夜FGO(Fate /Grand Order)といった作品の人気はとどまることを知らず、現在のコンテンツ業界にその名を馳せている。

 

18禁ゲームというとエロティック、グロテスクな表現が一般ゲームからタガが外れてしまっている作品が多いわけだが、この作品は違う。

一般の人でも楽しめるテーマを土台として書いているからこそ人気は出ているのだと思う。

また、英雄を使うという発想はその後のスピンオフ作品の作りやすさにつながっていたと著者は言っている。

 

Fateのスピンオフ作品に多くの18禁ゲーム出身シナリオライターが関わっているようだが、同じく内容を一般にも通じるものとして描いていることが多い。

虚淵玄などはアニメや特撮といった一般業界に名前が出てくるようになったのも、それが関係していると考えられる。

 

ライターの中には恋愛要素だとか、暴力的要素を際立たせることで、有名になっている人も多いが、それだけではコアな客層だけしか評価を得られない。

 

継続的に人に読んでもらうためには、やはり少数の人だけではなく、大勢の人間に興味を持ってもらわなくてはならない。

 

その点で、TYPE-MOON、特に奈須きのこはより受け入れられやすい内容を作り続けることで、これだけの人気を得たようだ。

 

しかし、私はアニメも漫画も特撮も大好きだが、Fateが面白いかと言われたら、正直微妙に感じる。

 

それは、どういった点にあるかと言われたら、いわゆる厨二病と言われるような格好つけた文章や表現がどうも気持ち悪いからだろうか。

 

よくこういった空想作品では特殊な能力というものが出てくるが、特に魔法というのはどうにも受け付けない。

紋章が浮かび上がったり、キザったらしい口上で、大仰に繰り出すのが嫌でたまらない。

そこにリアリティはないからだ。

 

私は作品の良さを語る上で、必要なのはリアリティだと考えている。

そもそも、人の頭の中から作り出されたストーリーは、他人には理解されない部分が多い。

そこで共感を得るためには、現実味を帯びている必要があるはずだ。

 

たとえば、魔法も科学的に出てくるものであるなら、おかしくはないだろう。

紋章も生身の人間から突然湧き出てくるのではなくて、それを光として生み出す媒体があるから納得が出来る。

そういった細かい部分の納得感がなければ、どんなに全体の話の構成がよくても、腑に落ちないのだ。

 

話を構成する上では、共感を得ることが何よりも大事である。

その上で、私が一番納得できるのはジョジョだと思う。

 

これも引いては特殊能力同士の戦闘が主であるが、登場人物が展開する場所や時代背景によくマッチしていると感じる。

イギリス、イタリア、アメリカ、ドイツ、日本にいかにもいそうなキャラクターで思想がその時々の場面にあっていると感じる。

また個人の能力もそのキャラクターにいかにもピッタリだと感じることが多い。

突然ビームが飛んだり、衝撃波が走るのではない。

そこにリアリティがある。

 

だから、英雄が出てくるというのは面白いし、そのキャラクターを作るのはいいが、もっと泥臭くしてほしいと感じる。

 

殺し合いを描くなら殺陣を演じるのではなく、殴り合いが正しいのだ。