☆読書感想 MaaS モビリティ革命

著  日高洋祐 他3名   モビリティアナリスト

2018

 

MaaSとはフィンランド発の論文における概念で、mobility as a service の略。

この論文内で、モビリティオペレーター(或いはMaaSオペレーター)=全ての交通機関を連結させたサービスを提供する事業者が存在する次世代交通網が必要になると示している。

この、全ての交通機関とは、ライドヘイリング(マイカーによる配車サービス)、カーシェアリング、自転車シェアリングといったものも含む。

電車、飛行機、新幹線、タクシー、あらゆる移動手段で目的地までの移動時間を示し、それぞれをまとめた単一の金額で、移動を可能とする社会。

これが、論文で提示された未来のモビリティソサエティだ。

 

ではどの事業者がそれを担うのか?

2018年現在は自動車メーカー、国営事業者、配車サービス提供者などなど、様々な国で模索中である。

その中で、論文を発表したフィンランドにはすでに一部社会実験を行ない、現在もサービスを提供する企業がある。

MaaSグローバルという会社だ。

この会社はウィムというアプリを開発し、提供している。定額制の交通利用統合アプリである。

この定額制サービスというのが要で、この会社はインターネットの通信料金形態の変化からヒントを得たらしい。

フィンランドといえば世界的企業として名を馳せたノキアが有名なので、携帯での利用形態の変化もあったはず。

我々も携帯料金定額制については馴染み深い。

携帯(インターネットも同様)ではもともと使用パケット量に応じた従量制が主流だった。

それが、通信インフラの進化に伴い、定額制に切り替わった歴史がある。

 

このとき、定額制によって様々なサービスの革命が起こった。

YouTubeAmazonといった巨大Webサービスの発現だ。

定額にすることにより、革命的新サービスが生まれる可能性がある。

これはMaaSでも同様と考えられる。

MaaSにおける定額制の利点は様々で、支払いの煩雑さ、時間から解放される点や改札等のインフラのメンテナンスなどが不要になる点が挙げられる。いい事尽くしだ。

 

しかし、日本についてはこの異なるサービスを一括りにすることが難しい状況にある。

日本では民間が運営する鉄道やバスなどが当たり前だ。

これは制度導入に対して枷となってしまう可能性が高く、どの事業者も導入においては自社にメリットをもたらすものでければ賛同が得られない。

驚いたことに世界では逆に民間運営はほとんどなく、国営中心である。

日本よりも海外の方が導入のアドバンテージがある。

 

日本では、2020年の東京五輪に向けて自動運転技術の向上やサービス実現に全力を尽くしているであろう。

ちなみに東京五輪期間中には800万人の海外観光客が首都圏に溢れるようだ。

交通麻痺の可能性も予想されている。

MaaSを導入出来れば、鉄道以外の様々なサービスへ負荷が分担されるはずだ。渋滞や混雑状況の改善に繋がる。

 

難しい状況でも世界に先駆けて、MaaSを導入出来れば、もともと、時間に正確で往来の大量処理ができている我が国が世界の先端を行く超高度システムを作ったとして世界の見本になれるだろう。

 

これがこの本のテーマだ。

そしてもう一つMaaSに欠かせないものがある。

それは自動運転車だ。

 

日本はマイカー大国である。日本でのマイカー平日利用率は世界に類を見ないほど高く、東京大阪等では1.5割程度だが、最も高い熊本では6割に近い。

これにより、特に地方では自動車を利用する前提の街づくりとなっていて、地方都市であればある程度の公共交通機関が整っているが、本当のど田舎では、車がないと生活が成り立たないと呼べるほどの環境になっている。

この状況を改善できるのは自動運転技術で、先のMaaSの一部としての活用も望める。非常に相性がいい。

私を含め、デジタルネイティブと呼ばれる若手世代では、ものを所有することに意義を持たない人が多い。

車の金額も軽ですらオプション諸々を含めて200万円を超える時代だ。

この本では車を所有した場合の費用を簡単に計算しており、ガソリン代、保険代等も含めれば、月5万円だという。

これでは、給与が上がらない今の時代、持とうと思わなくて当然だ。

今後、自動運転車が普及すれば、車を持っていない人も車を利用できるようになる。

これは大きな変革である。

ただし、それはマイカーではなくなるだろう。あくまで配車サービスの一部だ。

さらに自動運転の方が車の動作時間は増えることになるので、メンテナンスを行う事業者が必要になるだろう。

 

 

MaaSは土地に縛られてきた人間の歴史を大きく変えることになる。

都市や郊外の街の在り方もそれまでとは180度変わっていくだろう。

それは混沌とした今の日本の姿を浄化していくに違いない。

 

そんな世界が1日でも早く来ることを切に願いたい。